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当院独自の手術治療-質の向上を求めて― | 定永耳鼻咽喉科

当院独自の手術治療-質の向上を求めて―

手術術式の改良-後鼻神経切断術について―

アレルギー性鼻炎、血管運動性鼻炎に対して行われるヴィディアン神経切除術(後鼻神経切断術)は通常、鼻腔後方で後鼻神経が蝶口蓋孔から出てくる部分で神経を分離して選択的に切除する術式です。しかしながらこの手術方法では、鼻粘膜を走行する神経の全長の一部分しか切除しないため一部の症例では長期間にわたるアレルギー性鼻炎の抑制効果に限界が生じる可能性があります。
この問題を解決するために当院院長は、20年以上にわたり4000例以上の同手術症例を実施しながら独自に改良を重ね、粘膜内の血管を完全に保存した形で下鼻甲介粘膜内側を走行する神経の全長に近い長さで後鼻神経のみを50mm の1本の連続した神経のまま抜き取るように除去する独自の手術方法を開発しました。さらに下鼻甲介粘膜下で後鼻神経は1本ではなく複数本走行しており複数本の神経を切除する術式を行っています。さらに従来の方法での蝶口蓋孔での神経分離切除を追加して行います。

この手術操作は手術時間がすこし延長しますが、後鼻神経が蝶口蓋孔から下鼻甲介粘膜内を走行する神経全長におよぶ連続的なブロックが可能になるため、手術による抑制効果がより効率よく長期間継続することが期待されます。まだ手術後6年以上の長期成績は確認されていませんが、現段階では重症のアレルギー性鼻炎に対してさらに抑制効果の高い手術結果が確認されています。

令和3年現在、全国的にこの手術方法を行っている医療機関は存在せず、これはある意味当院独自の改良手術に過ぎません。従来の後鼻神経切断術は現段階でも非常に高い効果が示されておりアレルギー性鼻炎に対する優れた手術治療としての位置づけとその高い評価は現時点で全く変わるものではありません。

手術器械の改良

どの外科手術にも当てはまる原則ですが、決められた手術操作を効率よく安全に遂行するためにはその手術に特化した特殊な手術器械が必要です。とくに内視鏡や顕微鏡を使用する耳鼻咽喉科の狭い手術野では、その手術専用の特殊な手術器械の存在が欠かせません。現在までに多くの先人たちの知恵で多くの利用価値の高い手術器械がたくさん市販されています。しかしながら当院院長は多くの手術経験から従来の手術器械のみでは不十分な局面も多く経験し、より良い手術操作のために手術器械のさらなる改良が必要であることを実感していました。
そこで当院では20年前から、これらの手術器械を国内の老舗の耳鼻咽喉科手術器械製作メーカー(永島医科器械、東京)に依頼して従来の手術機械を改良、自作、特注することに熱心に取り組んできました。同社専属の手術器械製作職人さん方のご協力によって当院独自の手術器械の製作と使用が可能になり、より安全で確実な手術操作、短時間で効率の良い手術操作が可能になりました。
そのことは現在、当院の確実な手術結果に繋がっています。

鼻の手術の低侵襲化

鼻の手術は、全身麻酔がかかった後、鼻の穴から経4mmの内視鏡を挿入して手術を行います。内視鏡手術ですが、鼻腔内の粘膜には切開を加えなくては手術ができません。当院では、この従来の粘膜切開についてもできるだけ小さくできないかを常に探求してきました。標準的な手術の切開は、ときとして少し大きかったり複数の切開が必要だったりしますが、実際は手術の方法によって複数の手術操作がすべて一つの切開で可能にすることができます。狭いポケット内の手術操作を行うのはある程度の技術力が要求されますが、慣れればむしろ簡単に安全に操作が可能になります。手術野を確保するためだけの大きな粘膜切開は必ずしも必要ではありません。

ポリープの手術などでは、根治性を追及するために完全に切除する必要があり、どうしても手術創が大きくなることはやむを得ません。しかしながら可能な症例では、鼻内の手術の傷はできるだけ小さくしたいと考えています。それが手術後の傷が早く治癒していく最大の貢献だと思うからです。

耳の手術の低侵襲化

耳の手術は、通常耳介の後部に沿って6-7㎝の皮膚切開を加えて行います。
一般の外科手術のように大きな切開を行うわけではありませんが、必要があるとはいえ側頭部の皮膚にこれだけの長さの皮膚切開を加えるのは、年齢の若い女性や子供には正直ためらいがありますしそれは高齢の方でもまったく同じです。皮膚切開の後は耳介を起こして顕微鏡操作の手術野を確保します。
乳突削開術をおこなう真珠腫性中耳炎の手術などではどうしても必要ですが、それ以外の耳の手術では、当院ではできるだけの手術を耳の穴からの操作に置き換えて行っています。手術の安全性と操作の確実性が保証できるのであれば、できるだけ外を切らない、傷をつけないことも非常に重要であると認識しています。

そのため当院では、経外耳道内視鏡下耳科手術(TEES)をいち早く取り入れました。これは欧米で開発された新しい手術術式で日本でも近年非常に広く行われるようになってきた手術方法です。耳内の狭い視野での手術ですのでデリケートな手術操作を必要としますが、基本的に従来の手術操作と同一です。患者さんの負担は非常に少なく、皮膚切開がないか最小限で手術が終了するため、術後は喜ばれます。ただ現段階では、この手術方法で可能な手術と可能でない手術があることから、実際は患者さん一人一人の病態に合わせたオーダーメイドの術式の選択が必要になります。その中でもできる限り低侵襲の手術選択が好ましいと考えています。

手術付属品や医療素材の選択

鼻内とはいえ体内に内視鏡や手術器械などのステンレス製の異物を挿入して手術を行うわけですから、できるだけそのほかの部分を傷つけない工夫をすることが手術を執刀する医師の務めであると思っています。手術に際してよく使用される内視鏡や内視鏡洗浄装置、それに付随した内視鏡シース、手術器械などは、そのほとんどが手術を行う執刀医が「使いやすい」「便利な」ものが選択の基準となっています。見やすい、扱いやすい、簡単、楽であるなど術者の負担軽減は決してわるいことではなく、それは取りも直さず手術の進行にも影響します。しかし手術を受ける患者さんからの視点で見るとまた違った光景が見えます。一定時間の手術操作の中で、決まった手術器械を何度も狭い鼻腔の入り口を通過させなければならない内視鏡手術では、やはり粘膜にやさしい手術器械を使いたい。目に見えない小さな傷がたくさんついてしまいそうな手術器械やシースはできるだけ避けたいと考えています。便利で使いやすいけど先端がすこし尖っていて周囲の粘膜を傷つけやすい器械やシースよりも、従来型で先端が丸くなっていて粘膜に触れても優しく滑っていく器械を当院では好んで使います。とくにいちばん頻繁に鼻内に出し入れを行う内視鏡については、内視鏡全体を丸く削った金属で包む形式の金属シースを使用しています。それは手術後の治癒経過を1例1例自分の眼で観察してきたとき、驚くほど治癒経過が違ってくることに気がついたからです。手術中や手術後に使用する医療素材についても同様です。人間のからだに優しい素材の選択が思ったよりもずっと重要です。最新の医療素材よりも、最終的に先人たちが使ってきた昔の素材の使用に戻ることもよくあります。
現在、多くの術後ケア素材が開発、市販されています。もちろん少しでも患者さんの利益につながれば迷わず使用したいと考えています。

おわりに

手術はいくつかの側面からの総合的な作業です。言い換えれば、良い手術を行おうと思ったら手術だけに焦点を合わせるのではなく、使う器械や素材など多角的な視点から小さな改良を繰り返していく必要があると思います。これは当然のことですが、当院では、この当たり前のことを大切にしています。