小さな子どもさんをもつお母さんたちにとって、興味がある耳鼻科の病気が中耳炎でしょう。今回は、子どもの急性中耳炎について書きます。
中耳炎とは?
中耳炎とは、何でしょう。
中耳炎、中耳炎、中耳炎…。
聞き慣れた病名ですが、一体どんな病気か説明できますか?
まずらそこから始めましょう。
中耳ってどこ?
中耳とは、鼓膜の内側の空間です。
耳は解剖学的に外耳、中耳、内耳の3つに分かれます。耳介から外耳道を外耳、鼓膜の内側の空間を中耳、蝸牛(かたつむり)の形をした骨で囲まれてリンパ液の入った空間を内耳といいます。(図1)
図1で、鼓膜の内側の空間を中耳といいます。鼓室(こしつ)とも呼ばれます。この小さな空間には空気が存在していて、耳小骨(じしょうこつ)と呼ばれる鼓膜の振動を内耳へ伝える骨が3つ並んでいます。順番に、ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨です。中耳の空間は約2ccくらい。鼓膜と内耳(緑色の部分)との距離は7mmです。
この空間に炎症が起こり、膿(うみ)が貯まる病気を中耳炎といいます。
中耳炎とは?
中耳の空間に、感染による炎症が起こり、膿が貯まる病気です。
日本耳科学会の小児急性中耳炎診療ガイドライン(2018年版)では、急性中耳炎を「急性に発症した中耳の感染症で、耳痛、発熱、耳漏を伴なうことがある」と定義されています。
何歳に?
急性中耳炎は、1歳までに60%以上、3歳までに80%以上、罹患すると報告されています。
何故起こるの?
中耳炎は、お風呂で耳に水が入って起こるのではありません。プールで水が入っても起こりません。水は鼓膜の中まで入ってきません。鼓膜で外側と仕切られているからです。
では、中耳炎は何故起こるのでしょう?
中耳炎は、鼻の病気から起こります。小さい子どもさんはいつも鼻水が出ています。鼻腔が狭く、鼻がうまくかめず、鼻水が溜まりやすくなっています。風邪などで副鼻腔炎を起こしてこの鼻水が黄色くなったとき、膿汁を含んだ鼻水から中耳炎は起こるのです。
では、どうやって起こるのでしょうか?
その前に「耳管」について、知ってください。
耳管とは?
耳管(じかん)とは、鼻の奥と中耳をつなぐ細い管のことです。大人が高い山で耳がつまったとき、鼻をつまんで”耳抜き”をするその管のことです。人の耳は、鼻の奥から中耳へ空気が出入りするように解剖学的に設計されているのです。子どもでは、この耳管が、大人に比べて太く短く、水平にできています。そのため、副鼻腔炎のとき、ウイルスや細菌をたくさん含んだ黄色い鼻水から中耳へ感染が起こりやすくなります。耳管を通って感染が起こるのです。さらに子どもさんは、鼻の奥にアデノイドと呼ばれる扁桃の塊が肥大していることが多く、大人に比べて鼻水がのどに流れていかず、耳管の周りに溜まりやすくなります。
子どもさんの中耳炎は、このようにして起こります。(図2 図3)
副鼻腔炎などの鼻の病気から中耳炎が起こることが理解できましたね。では、次に行きます。
中耳炎で何が起こるの?
中耳炎がどうして起こるのか、わかりました。では中耳炎では、一体何が起こっているのでしょう。
答えは、炎症による膿(うみ)の貯留です。副鼻腔炎の細菌やウイルスが耳管経由で感染を起こしますので、小さな空間に炎症が起きて、膿が貯まります。これが中耳炎の病態です。
中耳炎てどんなの?
急性中耳炎の診断は、鼓膜の観察がすべてです。実際の中耳炎をお見せしましょう。
中耳炎を起こした子供さんたちの耳の中をファイバーまたは顕微鏡で観察すると、このようになっています。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Otitis_media
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Eardrum#/media/File%3ATM_RIGHT_NORMAL.jpg
( 写真はwikipediaより引用しています。)
正常と比べてみてください。一目で違いがわかりますね。中耳炎では、鼓膜が真っ赤になって中に膿が貯まり、ぱんぱんに腫れていかにも痛そうです!
耳鼻科的には、これを、鼓膜の発赤、膨隆、膿の貯留、と表現します。
どうして痛がるの?
中耳炎の子どもさんは、夜泣き止みません。痛み止めを飲ませても、なかなか寝ついてくれません。よほど痛いのでしょう。とくに、小さな子どもさんは、痛みを訴えることができません。耳を押さえて泣いてばかりです。ぐずって泣き止まないだけのこともあります。中耳炎がひどくなると、炎症による熱が出ます。39℃、40℃近くになることも稀ではありません。母親としては、心配でたまりません。
「明日、耳鼻科へ行こう。」
でも、どうして痛み止めが効かないくらい痛がるのでしょう。
痛いわけは?
中耳炎は、とても痛い病気です。
大人の中耳炎をみるとよくわかります。
大人で中耳炎を起こすと、かなり痛がります。分別ある大人が「痛い」と言います。
子どもさんは、泣くはずです。
痛みのわけは、鼓膜の緊張です。
鼓膜の前半部分は三叉神経に支配されています。(後半部分は迷走神経の支配です。)
三叉神経は、顔面の知覚のほとんどを感知するとても太い脳神経です。そのため、すごく敏感です。中耳炎で膿が貯まると、炎症で中耳の圧が高くなり、鼓膜がぱんぱんに腫れます。このとき、鼓膜が引き伸ばされ、鼓膜表面の三叉神経の刺激で、激痛がするのです。歯の痛みは、すごく痛いですね。歯の痛みも三叉神経からきています。逆に炎症がかるく、鼓膜が腫れ上がっていない中耳炎は、ひどくは痛がりません。膿がたくさん貯まると、鼓膜の緊張がピークに達し、痛みも最高潮になります。子どもさんは泣き止みません。突然、鼓膜が破れて、膿が流れ出します。(耳漏)
鼓膜が破れると、鼓膜の緊張がなくなり、痛みはすっと引いてきます。子どもさんは、耳だれがたくさん出たら、泣き止むのです。
それとともに、高かった熱もすっと下がってきます。
破れない中耳炎は、とても痛がります。
起炎菌は?
いちばん聞きたいのは治療のことです。
現在では優れた抗菌薬があるため、多くの急性中耳炎が、お薬の治療で治癒します。急性中耳炎の起炎菌(原因となる細菌)にターゲットを絞った抗菌薬治療が欠かせません。
そのため、急性中耳炎の起炎菌について、すこし知っておいてください。
急性中耳炎の主な起炎菌はこの3つです。
インフルエンザ菌
肺炎球菌
モラクセラ・カタラーリス
急性中耳炎の起炎菌は、日本だけでなく欧米の報告でも同じ結果になっています。
これら3つは細菌です。インフルエンザとありますが、ウイルスではありません。
耐性菌のこと
抗菌薬治療について書く前に、耐性菌について知っておかなくてはなりません。
耐性菌とは、一種類または複数の抗菌薬に薬剤耐性を示す菌のことです。簡単に言うと、抗菌薬が効かないのです。理由は抗菌薬の使いすぎです。細菌に変異株ができてしまい、その抗菌薬に壊されなくなった菌ができてしまうのです。
インフルエンザ菌の耐性菌は、BLNAR
肺炎球菌の耐性菌は、PISP, PRSP
現在、インフルエンザ菌、肺炎球菌の耐性菌は、60-80%にもなっています。
さらに集団保育によって、保育園児の60%がMRSAを保菌するとの報告もあります。
これら耐性菌は、現在、急性中耳炎の抗菌薬治療の方針を根本的に変えています。
耐性菌の治療は?
耐性菌には多くの抗菌薬が無効です。耐性菌の問題を解決するには、2つの方法しかありません。
1つは、耐性菌にも有効な新しい抗菌薬を開発すること。次々と新しい抗菌薬が登場していますが、しばらくすると耐性菌は、またその抗菌薬に耐性を獲得していきます。新しい耐性菌が誕生するのです。
2つめは、抗菌薬を使わないこと。抗菌薬を無理に使わないで良い症例に対して抗菌薬を使うと、耐性菌の出現を助長します。なので抗菌薬をできるだけ使用しない治療が今、推奨されています。
現在用いられている最新の小児急性中耳炎診療ガイドライン(2018年版)でも、軽症例は最初の3日間を抗菌薬を使用せずに経過観察することを推奨しています。
重症度の診断
急性中耳炎には重症度があります。
急性中耳炎の重症度は、スコア化されてきます。(表1)
小児急性中耳炎診療ガイドラインでは、この重症度スコアを判定します。そして、スコアによる治療フローチャートを推奨しています。
表1 小児急性中耳炎重症度スコア
軽症 5点以下
中等症 6-11点
重症 12点以上
図2 中耳炎によくある症状は?
治療
中等症と重症では、初診から抗菌薬治療を行います。抗菌薬はAMPC, CVA/AMPC, CDTR-PI 高容量が推奨されています。
軽症では、抗菌薬を使用せず、3日間経過観察します。
中等症以上で初回治療が無効であった場合、および重症に、鼓膜切開術が治療に加えられます。鼓膜切開術は、鼓膜の一部を切開して中に貯まった膿を出す治療です。
小児急性中耳炎診療ガイドラインは、関連学会から、webで広く公開されています。転載禁止のため、ここでコピーをお見せすることはできません。興味がおありのお母さんがたは、各自アクセスしてみてください。
https://www.otology.gr.jp/common/pdf/guideline_otitis2018.pdf
( p 29, 38, 80, 81, 82,
p 100- 巻末カラー図表 : 重要 )
ガイドラインとは?
診療ガイドラインは絶対ではなく、あくまで “ガイドライン”です。最終的な治療選択は、担当医が総合的に判断して決定します。ですので、子どもさんが受ける治療が、ガイドライン通りでなくても、それは間違った治療ではありません。
最後に
小さな子どもさんが耳を痛がったり、耳を押さえて泣くときは、お母さん方は、中耳炎(かもしれない)と思ってください。
すぐに、かかりつけの耳鼻咽喉科を受診してください。中耳炎はとても痛いのです。
当クリニックでも急性中耳炎について掲載しています。ご興味がある方はお読みください。