癒着性中耳炎とはどんな中耳炎でしょう。
癒着(ゆちゃく)とは、くっつくことです。
医学的な意味では、「本来、離れているはずの生体組織が、外傷や炎症のためにくっつくこと」です。
耳鼻咽喉科では、鼓膜が癒着した中耳炎のことです。
今回は、癒着性中耳炎について書きます。
正常の鼓膜
癒着性中耳炎を理解するために、まず正常鼓膜について知る必要があります。
まずは、解剖からです。
鼓膜は外耳道の入り方から3 cm。
直径8-10 mm、厚さ0.7 mm、灰白色半透明の薄い膜です。
正常鼓膜です。
鼓膜の向こう側は、中耳という空間です。骨に覆われた内耳の蝸牛までの空間は7 mm。この空間に、耳小骨と呼ばれる人体最小の3つの骨、ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨が並んでいます。耳小骨は鼓膜の振動を内耳に伝えています。(図1)
癒着した鼓膜
陥凹した鼓膜を示します。
鼓膜が凹んでいます。
中耳に陰圧がかかるためです。
もっと内陥すると、癒着します。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Tympanic_membrane_retraction
癒着した鼓膜です。
https://slidetodoc.com/chronic-otitis-media-dr-farid-alzhrani-assistant-professor/
最もインパクトのある内視鏡写真をwebから探しました。(上記サイト)
写真の出典は以下です。
癒着性中耳炎は、中耳の空気が失われ、薄い鼓膜が内陥して中耳の骨壁に張り付いてしまった状態です。
鼓膜が耳小骨の隙間に陥凹して浮き彫りになり、癒着した中耳の壁が透けて見えています。(図4 写真右)
https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-3-319-72962-6_4
(by Dr. Michael Hawke )
https://medtube.net/otorhinolaryngology/medical-pictures/28835-severe-atelectasis
この鼓膜写真では、中耳の空気が全く見られません。かなり高度な癒着です。
分類
癒着の程度によって、grade Ⅰ-Ⅳ に分類されています。
Middle Ear Diseases
-Advances in Diagnosis and Management-
Salah Mansour, Jacques Magnan, Karen Nicolas & Hassan Haidar,
Springer 2018, pp 143-160
Adhesive Otitis Media
より引用しました。
Auris Nasus Larynx Volume 49, Issue 5, October 2022, Pages 790-796
Comparative study on adhesive otitis media and pars tensa cholesteatoma in children
Author: SaekoYoshida Yukiko Iino
より引用しました。
原因は?
耳管機能が悪いことが最大の原因です。
中耳が陰圧になって、急性中耳炎を繰り返したり、滲出性中耳炎が治癒せずに長期間続いたときに起こります。
耳管狭窄だけでなく耳管開放症のために鼻すすり癖で中耳の空気を抜く人にも起こります。
症状は?
難聴、耳閉塞感が中心です。
難聴は、軽度の難聴から高度難聴まで、さまざまです。難聴は伝音難聴ですが、進行すると感音難聴もともないます。
中耳空間の粘膜の線毛運動が低下しますので、耳痛やときに耳漏が起こります。
耳管機能の状態によって、症状の深刻さも変化します。
治療は?
癒着が軽度の場合は、鼻から耳に空気を送るバルサルバ法によって鼓膜が浮き上がり、一時的に改善します。
しかし癒着が進行した鼓膜は、組織学的に中耳粘膜と一体化しますので、耳管通気(カテーテル)による鼓膜の挙上ができなくなります。
癒着して中耳の骨の壁に固定された鼓膜は、動くことができなくなり、残された空気に接した一部分の鼓膜のみの振動で音を伝えることになります。
さらに、癒着した鼓膜のために耳小骨が炎症により破壊され、鼓膜の振動を正常に伝えることができなくなります。
このため伝音難聴が起こります。
さらに高度の鼓膜癒着が進行すると、鼓膜上皮が陥凹して中耳腔から乳突洞に進展していく、真珠種性中耳炎へ移行することがあります。
真珠種性中耳炎および耳小骨破壊が進行した高度の難聴は、手術治療が必要になります。
(鼓室形成手術)
癒着を見つけるには?
自分の鼓膜は、自分で見ることができません。
もし鼓膜が癒着しているのかも?と思ったら、誰かに見てもらうしかありません。
心配になったら、かかりつけの耳鼻咽喉科の医師に診てもらいましょう。
きっと丁寧に説明してくださるはずです。