リティンパという薬剤があります。
リティンパは、鼓膜穿孔を閉鎖するお薬です。従来、鼓膜の穿孔(あな)は、ある程度大きければ、手術で閉鎖しなければなりませんでした。
しかし、2018年に保険収載されたリティンパというお薬は、従来は手術が必要だった大きな鼓膜穿孔を、薬で閉鎖します。
今回は、このリティンパという薬について、書きます。
リティンパとは?
リティンパは、遺伝子組み換えヒト塩化性線維芽細胞増殖因子(bFGF)です。トラフェルミンと言う薬剤です。
リティンパは組織再生力を促進する作用があり、鼓膜上皮の成長を促進させる働きがあります。大きな穿孔(あな)があって何10年も穴があいたままの鼓膜でも、鼓膜の再生力は残っています。リティンパは、本来生体が持っている鼓膜上皮の再生力を利用して、手術をせずに鼓膜を自然閉鎖に導く薬です。
語句解説
理解のために、すこし語句の説明をしておきます。
bFGF : basic fibroblast growth factor
bFGFはヒト線維芽細胞と血管内皮細胞の増殖を促して、新生血管に富む良性肉芽の形成を促進するタンパク質。
トラフェルミン : 遺伝子組み換えしたbFGF
国内ではフィブラストの薬品名で、褥瘡、皮膚潰瘍などの治療薬として使用されている。
リティンパはトラフェルミンという薬剤です。
どんな方法?
リティンパがどんな薬かわかりました。では、どのようにしてリティンパで鼓膜を閉鎖するのでしょうか。
リティンパを投与する前に、鼓膜の穿孔部分の上皮を一部細い針などで傷つけます。これは、傷の創傷治癒がスムーズに起こるように、鼓膜上皮の”新鮮化”を行います。痛くないようにしますが、場合によっては簡単な局所麻酔をします。
次に、リティンパを特殊なスポンジに浸して鼓膜の穿孔部の内側に置きます。その後、フィブリン糊で固定します。治療はこれだけです。あとは、鼓膜が再生するのを待ちます。治療はこれだけです。ゼラチンスポンジは自然に吸収されます。
4週間の間隔をあけて、リティンパ投与を 4回行います。それまでに鼓膜が閉鎖すれば、そこで治療は終了です。
鼓膜の閉鎖率は約80%です。リティンパは高価な薬剤のため、保険適応の制限でこれ以上は投与できません。
リティンパの実際
イラストで見てください。
指ドローなのでイラストが雑ですみません。
これで治療終了です。簡単ですね。
リティンパは何回?
リティンパの治療は、保険適応で回数の制限があります。治療は4回までです。4回の治療で閉鎖しなかった場合は、鼓室形成手術などの耳の手術を考慮しなければならないことがあります。
個々の症例によって、保険適応がすこし違ってきますから、詳しくは主治医にお尋ねください。
成功率は?
4回の治療で、鼓膜穿孔の閉鎖率は、80%です。
閉鎖できなかった場合、2クール目を実施できるかどうかは、担当医と相談しましょう。
リティンパの治療を複数回行っても鼓膜穿孔の閉鎖が成功しない場合には、最終的に手術で鼓膜を閉鎖しなければならないこともあります。(鼓膜形成術)
副作用は?
大きな副作用はとくに報告されていません。局所治療です。ごく稀に薬剤のアレルギーがあります。かゆみ、痛み、かぶれ、発疹などが報告されていますが、耳鼻咽喉科の治療では、副作用のほとんどは耳漏(耳だれ)という形で表れてきます。
治療の適応は?
6ヶ月以上自然閉鎖しない鼓膜穿孔は、全例がリティンパの治療適応になります。
注意すべき事項として、過去に鼓膜形成手術または鼓室形成手術を受けたことがある方は、リティンパの適応を慎重に考慮する必要があります。手術を受けていると鼓膜の部位によって鼓膜の再生力に差があるためです。このときは、担当医とよくご相談ください。
手術? リティンパ?
鼓膜に穿孔がある患者さんは、どちらの治療を受けたら良いのでしょう。
鼓膜閉鎖率が95%を超える手術か、手術のストレスがなく80%閉鎖するリティンパか。単純に考えるとリティンパの方が魅力的な治療です。しかしながら、単に鼓膜を閉鎖しただけでは聴力改善ができない耳小骨連鎖の硬化や固着がある症例では、手術治療によって耳小骨連鎖形成を同時に行うことで聴力改善に結びつけることが可能です。(鼓室形成手術)
どちらの治療が、あなたの耳に適しているか、もし迷ったら一度、かかりつけの耳鼻咽喉科医にご相談されたらどうでしょうか。