アデノイドという病気を知っていますか?
アデノイドは、子どもの鼻の奥、突き当たりのところにある扁桃腺の一部です。
目に見えないアデノイドは、じつは子どもさんにとても大きな影響を与えています。
今回は、アデノイドについて知ってください。
アデノイドはどこ?
扁桃腺と聞くと、のどの奥、左右に見えるごつごつした半球状の塊を思い浮かべます。でもじつは、子どもさんの鼻の奥にも存在しています。鼻の奥の扁桃腺を咽頭扁桃と言い、アデノイドと呼びます。医学名は、adenoids と書きます。疾患名は、アデノイド増殖症 adenoid vegetation と言います。
アデノイドは鼻とのどの堺の部分、解剖学的には上咽頭という場所にあります。(図1)
では、アデノイドは、一体何のためにあって、何をしているのでしょう。
アデノイドの役割
アデノイドは、何のためにあるのでしょうか。アデノイドは、組織学的には扁桃腺ですから、扁桃のはたらきをします。
外界からの細菌やウイルスの侵入があると、アデノイド表面のリンパ上皮共生で、上皮細胞、M細胞や樹状細胞などが抗原を取り込み認識して、上皮直下のリンパ濾胞でナイーブT細胞の誘導、活性化やB細胞の抗体産生、免疫記憶などの免疫応答を行なって体を防御します。
医学的には、粘膜関連リンパ装置(mucosa-associated lymphoid tissue : MALT )と言います。
すこし難しく書きましたが、要は感染防御のためのリンパ組織なのです。
人の体では、アデノイド、のどに見える口蓋扁桃、舌の後ろの舌根扁桃を合わせて、円周状のリンパ組織が形成されています。これを”ワルダイエルの扁桃輪”と言います。
この円周状の扁桃輪は、細菌やウイルスなどの侵入に対して、生体を防御する防波堤のはたらきをしています。
アデノイドは正式名称を咽頭扁桃と言い、ワルダイエル扁桃輪の一部分を担っています。
リンパ上皮共生 : 扁桃表面の上皮細胞の間隙に、炎症がないのにリンパ球が浸潤している状態 アデノイド(咽頭扁桃)にも見られる上皮構造
M細胞 : Microfold 細胞
腸管上皮や扁桃に存在する、抗原提示細胞
アデノイドの大きさ
アデノイドは、年齢による生理的変化をします。
アデノイドは生まれたときは小さく、2歳頃から大きくなり始め、4-5歳ごろに最大になり、成長とともに小さくなります。成人ではアデノイドはほとんどありません。
アデノイドは、鼻とのどの境目で大きくなるため、物理的な閉塞による症状と、感染による症状が起こります。
肥大による症状
アデノイドが上咽頭の狭い空間で、生理的に肥大するとき、物理的閉塞による症状が起こります。代表的なものは、睡眠時無呼吸症候群です。小児は鼻呼吸が重要ですが、アデノイドが上咽頭を完全に閉塞すると、鼻呼吸ができなくなります。さらに5歳くらいでアデノイドが最大になる頃、のどの口蓋扁桃も肥大し始めますから、両者が相まって睡眠時に咽頭を完全に閉塞して、高度の睡眠時無呼吸症候群が起こってきます。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Adenoid
(adenoid wikipedia より引用)
感染による症状
アデノイドは上咽頭にあります。この部位は、鼻腔後方の位置で、アデノイドのすぐ横に耳管が開口しています。アデノイドで細菌やウイルスの感染を繰り返すと、耳管経由で急性中耳炎や滲出性中耳炎が起こりやすくなります。また、鼻腔後方をブロックしてしまいますから、高度の鼻閉が起こり、鼻汁や後鼻漏が咽頭へ流れず、副鼻腔炎が増悪します。アデノイドの肥大は、子どもの鼻副鼻腔炎、中耳炎を引き起こし、悪化させるのです。
診断
アデノイドが、どこにあってどんなものかは理解しました。アデノイドによって、何が起こるかも知りました。
次は、お子さんにアデノイドの肥大があるかどうかを調べなければなりません。
アデノイドの診断は、レントゲン撮影1枚で診断できます。上咽頭高圧撮影といいます。難しくありません。どこのクリニックでも診断可能です。ただし、患者さんが小さな子どもさんのため、レントゲン撮影に協力できないことが、しばしばあります。概ね4歳以上で、聞き分けの良いお子さんなら可能でしょう。泣いてお母さんから離れないお子さんは、レントゲン診断が難しくなります。
アデノイド疾患
(MSD マニュアル プロフェッショナル版)
より転載
小学生くらいで、我慢ができる子どもさんであれば、鼻からの軟性内視鏡(ファイバースコープ)によるアデノイドの直接観察が可能になります。
治療
アデノイドの肥大があるとき、治療のほとんどは、経過観察になります。5歳以降は、アデノイドの生理的退縮がみられるからです。退縮のスピードは個人差があります。12歳頃までにかなり小さくなることが多いですが、時々、中学生になってもアデノイドが大きい子どもさんがいます。ごく稀に大人になっても残っている人もいます。要は、アデノイド肥大による症状が、どれだけひどく、どれくらい続いているかによって、治療方針が変わってきます。ほとんどの場合、アデノイド肥大の症状は高度ではなく、許容範囲内です。ごく一部の子どもさんが、4-5歳頃に重症の睡眠時無呼吸症候群を起こして夜間に陥没呼吸やシーソー呼吸が見られたり、漏斗胸などの胸郭の発育異常を起こしてきます。また、夜間に呼吸が苦しくて頻繁に覚醒したり、慢性的な睡眠不足のため日中の傾眠傾向や、”アデノイド顔貌”といって、常に口呼吸で集中力が低下したような顔貌(顔つき)になることが知られています。アデノイド顔貌は、鼻性注意散漫症とも言われています。
高度のアデノイド肥大に扁桃肥大、小児肥満をともなっている場合などは、重症の睡眠時無呼吸症候群がさらに悪化して、仰臥位だけでなく側臥位でも眠れずに起坐位(座る姿勢)になって眠るお子さんもいます。
このような場合には、正常な発育を促し、夜間の異常睡眠を改善するために、全身麻酔下にアデノイド切除術が必要になります。
何に気をつければ?
お母さんがたは、何に気をつけていれば良いでしょうか。まずは、お子さんが口呼吸になっていないか。鼻から呼吸ができているか。夜間に仰向けに寝ているとき、呼吸が止まっていないか。十分睡眠時間をとっているのに、昼間うとうとしていることが多くないか。口元がだらんとして(?)、顔の筋肉が弛緩していないか。(アデノイド顔貌) いつも、ぼーっとしていることが多くないか。
こんな症状が1つでもあったら、まず、かかりつけの耳鼻咽喉科を受診してみてください。
アデノイドは、お子さんの訴えがまずありません。中耳炎みたいに痛くないからです。お母さんが、注意深く、ご自分のお子さんを観察してあげないといけないのです。
アデノイド顔貌
アデノイド顔貌をお見せしたくて、耳鼻咽喉科の教科書、イラスト等を探しましたが、どうしても一目でわかりインパクトのあるイラストが見つからず、webで検索中、東京都の加藤整骨院さんのホームページにいちばん素晴らしいイラストを見つけました。出典を明示してここに掲載させていただきます。
東京都町田市 加藤整骨院