JESREC スコアとは、好酸球性副鼻腔炎の確定診断と重症度を判定するために考案された点数です。一定点数を超えれば、好酸球性副鼻腔炎と診断され、この点数が高いとより重症であり難治性であると判断されます。
好酸球性副鼻腔炎
まず、耳鼻咽喉科で副鼻腔炎の診断があること。そして、好酸球性副鼻腔炎の可能性が高いこと。この2つが重要です。
JESRECスコアは、好酸球性副鼻腔炎の診断および重症度判定に用いるスコアだからです。
2000年頃から成人発症で、嗅覚障害を伴い、両側に鼻茸があり、CTで篩骨洞優位の陰影を示し、治療抵抗性で易再発性の難治性副鼻腔炎が増加してきました。
血液検査で末梢血好酸球が増多しており、摘出された鼻茸の病理学的診断で好酸球浸潤が認められ、好酸球性副鼻腔炎と命名されました。
気管支喘息やアスピリン不耐症の合併も認められ、その概念、診断基準を明確にするため、多施設共同大規模疫学研究 (Japanese Epidemiological Survey of Refractory Eosiophilic Chronic Rhinosinusitis Study:JESREC Study)
JESRECとは、この多施設共同大規模疫学研究の頭文字をとった単語です。
JESRECスコアの採点
JESRECスコア採点の方法は、詳細に公開されています。
<診断基準>
好酸球性副鼻腔炎の診断基準
<診断基準:JESRECスコア>
① 病側:両側 3点
② 鼻茸あり 2点
③ CTにて篩骨洞優位の陰影あり 2点
④ 末梢血好酸球(%) 2< ≦5 4点
5< ≦10 8点
10< 10点
JESRECスコア合計:11点以上を示し、鼻茸組織中好酸球数(400倍視野)が70個以上存在した場合をDefinite(確定診断)とする。
<重症度分類>
1)又は2)の場合を対象とする。
1)重症度分類で中等症以上を対象とする。
2)好酸球性中耳炎を合併している場合
1)重症度分類
CT所見、末梢血好酸球率及び合併症の有無による指標で分類する。
A項目:①末梢血好酸球が5%以上
②CTにて篩骨洞優位の陰影が存在する。
B項目: ①気管支喘息
②アスピリン不耐症
③NSAIDアレルギー
診断基準JESRECスコア11点以上であり、かつ
1.A項目陽性1項目以下+B項目合併なし:軽症
2.A項目ともに陽性+B項目合併なし or
A項目陽性1項目以下+B項目いずれかの合併あり:中等症
3.A項目ともに陽性+B項目いずれかの合併あり:重症
2)好酸球性中耳炎を合併している場合を重症とする。
難病情報センター
好酸球性副鼻腔炎(指定難病306)
概要・診断基準等
(平成27年7月1日 厚生労働省作成)
情報提供: 難治性疾患政策研究班(厚生労働省)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4538
JESRECスコアの意義
JESRECスコアが11点未満であれば、非好酸球性副鼻腔炎です。つまり、ふつうの副鼻腔炎の診断です。重症度と適応を判断して、手術(ESS)やマクロライド治療を行い、治癒や寛解状態に導くことで、副鼻腔炎のコントロールが可能になります。この場合、再発性副鼻腔炎に対しても、手術治療(ESS)は有効です。
一方、JESRECスコアが11点を超えた場合、好酸球性副鼻腔炎と診断されます。図1の診断アルゴリズムに従い、軽症、中等症、重症の重症度の判定を行います。
診断基準はやや複雑で、アルゴリズムも難解に見えますが、じつは意外に簡単です。
鼻腔内に両側の鼻茸を見ただけで5点です。さらに、末梢血の好酸球数が5%を超えていると8点です。それだけで13点になり、好酸球性副鼻腔炎と診断できます。
さらに、喘息を合併していればその時点で、中等症または重症と判定されます。
あとはCT所見で篩骨洞陰影が優位ならば、重症です。
このようなプロセスで考えると、診断も重症度の判定も難しくありません。
JESRECスコアの判断
副鼻腔炎が、非好酸球性副鼻腔炎か、好酸球性副鼻腔炎かの診断は、非常に重要なポイントです。
何故なら、その後の治療戦略において、プランニングが全く違ってくるからです。
先に書いたように、非好酸球性副鼻腔炎は、手術が効果的で、術後経過も不良でなく、再発が認められても再手術や保存的治療でのコントロールが容易です。最終的に治癒または寛解状態に導くことが可能です。
しかし、好酸球性副鼻腔炎は、手術治療(ESS)を行なっても、6年間で50%が再発します。再手術を2回以上実施する症例も少なくありません。ステロイドの全身投与が必要で、局所のステロイド投与と合わせて、慎重に観察と治療を行っていきます。好酸球性副鼻腔炎には、マクロライド治療は効果がないことが報告されています。
コントロール不良例も少なくなく、保存的治療の限界から、現在ではタイプ2炎症を抑制する生物学的製剤のデュピクセントが使用されるようになっています。デュピクセントは、2019年に「鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎」に対して国内で初めて保険収載され、現在ではペン型の在宅自己注射製剤の使用が普及しています。
デュピクセント
従って、JESRECスコアより好酸球性副鼻腔炎と診断された場合、その治療については、手術治療後の再発の可能性を含めて、治療が長期化することを、患者さんおよびご家族に、丁寧に説明する必要があります。
ここに、JESRECスコアの意義があると考えます。
副鼻腔炎の診断
まず、副鼻腔炎かどうかの正確な診断が必須です。単純レントゲンでは、100%の診断が困難です。可能ならCT検査をお勧めします。もちろん、一時的な急性副鼻腔炎ではCTまでは必要ないことが多いですが、再発例や副鼻腔炎の症状が強いときにはCT撮影を行うことが、診療ガイドライン上でも推奨されています。
保存的治療抵抗例(耳鼻咽喉科で内服治療などをしていたが、副鼻腔炎が改善しない場合をいいます。)も当然、CTの適応になります。
鼻内視鏡検査は必須の検査です。
慢性副鼻腔炎の診断がついた場合、それが非好酸球性副鼻腔炎なのか、好酸球性副鼻腔炎なのかを、確実に診断しなければなりません。詳しい問診、鼻内視鏡による鼻茸の観察評価、CT陰影の確認、血液検査、さらに喘息の合併の診断には、呼吸器内科医の診断が必要になります。
診断基準にはありませんが、好酸球性副鼻腔炎では、早期から嗅覚障害を起こすことが多いため、基準嗅覚検査(オルファクトメトリー)が必要になることがあります。
これで、診断は100%です。
どうすれば良いの?
難しい話ばかりになりました。
では、私たちが鼻が悪くて耳鼻咽喉科を受診したとき、一体どうすれば良いのでしょうか。
まずは、副鼻腔炎があるか、ないか。
CTで診断です。
副鼻腔炎がなければ、アレルギー性鼻炎の有無や鼻中隔湾曲症の程度を診断して、治療します。
副鼻腔炎があれば、先の診断基準によって、好酸球性副鼻腔炎かどうかの診断です。ここで、JESRECスコアでの採点を行います。
好酸球性副鼻腔炎でなければ(非好酸球性副鼻腔炎)、通常通りの副鼻腔炎の治療プランを立てます。手術が必要な場合は手術(ESS)を計画して、内服治療が必要な場合はマクロライド治療を行います。
好酸球性副鼻腔炎と診断されれば、JESRECスコアと重症度の判定から、長期化が予想される治療プランを立てなければなりません。この場合も、手術適応がある場合には、手術治療(ESS)を実施して、その後にステロイド内服治療や局所治療を継続することになります。再発例には、再手術またはデュピクセント治療が必要になります。
結論は?
まず、副鼻腔炎かどうか、副鼻腔炎なら好酸球性副鼻腔炎かどうか。かかりつけの耳鼻咽喉科の主治医に尋ねてみてください。
ここが、治療のスタートになります。
好酸球性副鼻腔炎を特別に怖がる必要は、全くありません。どこまで行ってもあくまで良性疾患です。途中から悪性になったりすることは絶対ありません。
この病気で1番重要なことは、この病気について「知ること」です。詳しく説明してもらってください。良く理解してください。そして、どうすれば最も良いかを、主治医の先生とよく話し合うことです。
JESRECスコアの点数も聞いてみると良いかもしれません。