痛そうです。
すらっとした鼻筋がくの字に曲がって…
映画のワンシーンなどで鼻が折れた登場人物が、自分でぐいっと戻すシーン。
見たことありますか?
今回は、痛そうな鼻骨骨折について、書きます。
鼻骨って何?
一度くらいは聞いたことがある鼻骨骨折。
でも、鼻骨って一体どこでしょう。
まずは、外鼻の解剖からです。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%BC%BB%E9%AA%A8
図1で赤色の骨が鼻骨です。
あれ?鼻筋全部ではないのですね?
そうです。鼻筋の長さの上方1/3が鼻骨です。下方2/3は、軟骨で構成されています。
だから、鼻がぶつかっても軟骨の弾力ですぐには折れたりしないのです。
鼻骨は左右1対です。
このイラストだと、鼻骨の位置がわかりやすいと思います。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%BC%BB
鼻骨が折れる…
鼻骨の位置はわかりました。
ここが、どのように折れるのでしょう。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%BC%BB%E9%AA%A8
これは、外鼻錐体です。顔面の鼻の形すべてを構成する軟骨と骨、軟部組織です。
図3の青色部分(🟦)は、軟骨です。
鼻骨骨折は、じつは上方1/3の鼻骨だけでなく、外鼻錐体全体の骨折すべてを含みます。
この部分のどこが折れても、鼻骨骨折として治療されます。
上方1/3の鼻骨が骨折する場合、さらに鼻骨と軟骨の接合部が折れることもあります。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%BC%BB%E9%AA%A8%E9%AA%A8%E6%8A%98
典型的な鼻骨骨折のレントゲン写真です。
どこが折れるのか、一目瞭然ですね。
原因は?
外力です。
外鼻につよい外力が作用することによって起こります。
スポーツでの激しいコンタクト、格闘技、喧嘩、交通事故、転倒、などが原因となります。
分類は?
鼻骨骨折を合併骨折の有無によってclassⅠ-Ⅲに分類する方法があります。
class I – 鼻骨と鼻中隔のみの骨折。
class II – 鼻骨と鼻中隔の他に、周辺の骨の骨折があり、粉砕骨折がある。
class III – 眼窩壁など、他の部位に大規模な骨折を合併している。
class Ⅱ, Ⅲ で問題となる、鼻骨骨折以外の骨折は、頭蓋底骨折、眼窩壁骨折(眼窩吹き抜け骨折を含む)、上顎骨折などです。
顔面骨折の一部としての鼻骨骨折もあります。
鼻骨骨折だけでは、周囲骨や軟骨との関係で,3タイプに分類されています。
①鼻骨陥凹骨折、
②open-book型、
③鼻骨鼻中隔複雑骨折、
の3つのタイプです。CT、3D CTから、鼻骨骨折、鼻骨鼻中隔骨折の形状を正確に把握して、具体的な整復の手技、固定の方法を検討するために重要な分類です。
診断は?
鼻骨骨折の診断は、受傷直後が1番わかりやすく、翌日翌々日は、皮下出血や血腫で骨折部位が腫脹して、鼻骨の偏位がわかりにくくなります。
レントゲンやCT撮影では、受傷直後から確実に診断されます。
CTは、より複雑な骨折や全体の形状、さらに他の部位の骨折が合併していないかを確実に診断できるため、骨の偏位がある鼻骨骨折には、必要な検査です。
外鼻の変形や鼻骨の偏位がない鼻骨骨折や亀裂骨折などは、レントゲンだけでも十分診断と治療が可能です。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%BC%BB%E9%AA%A8%E9%AA%A8%E6%8A%98
再度、鼻骨骨折のレントゲン写真です。
骨折部位がよくわかります。
症状は?
鼻出血、外鼻の腫脹、血腫、皮下出血、鼻呼吸障害です。
その他、鼻骨以外の骨折部位がある場合、その部位の骨折による症状が出ます。
鼻骨骨折で問題となるのは、鼻骨以外の骨折部位があるとき、さらにその骨折が重篤な合併症を引き起こすことがあるからです。
頭蓋底骨折のときは、鼻から水のような鼻水がスタスタ出てきます(鼻性髄液漏)。
眼窩壁骨折(眼窩吹き抜け骨折など)のときは、視力や視野の障害がでます。骨折片が外眼筋を挟んで絞扼すると、眼球運動障害が起こります。骨折部位が視神経管に及ぶと著しい視力低下が起こります。最優先で視神経管開放術を実施しなければなりません。
まずは、CTで正確な診断を行い、鼻骨骨折と鼻骨以外の骨折の有無を正確に把握することが必要です。
治療は?
受傷(骨折)直後は、骨折部位の冷却圧迫療法を行います。疼痛に対して鎮痛薬を内服します。
外傷後2週間以内であれば非観血的に整復することが可能です。(切開手術しない)
陳旧性となったものでは観血的整復が必要になります。(切開手術する)
骨折した鼻骨は、2週間で骨が癒合するため、鼻骨は曲がったままになります。そのため、鼻骨骨折で骨の偏位がある場合、2週間以内に、整復術を行います。整復術は、鼻の中に整復のための器具を挿入して、内側から骨折した方向と逆方向に力を加えて戻します。整復の器具は、鼻の粘膜を傷つけないように先端が丸くなったものを使用します。整復術が終了したら、鼻内には、軟膏付きガーゼを挿入して骨折部位を内側から固定し、外側からはギプスを装着して固定します。整復術は、成人では局所麻酔で施行可能ですが、症例によって全身麻酔で行うこともあります。
2週間を超えた鼻骨骨折は、骨が癒合しているため、癒合した骨を再度骨折させなければなりません。癒合が軽度であれば、2週間以内の整復術と同様の手技で、鼻内から再骨折させ、鼻骨の偏位を戻します。骨の癒合が硬く、再骨折が困難である場合は、鼻骨の骨切り術を行う必要があります。鼻の入り口の鼻柱という部分を切開して、外鼻形成術の方法で鼻背部(鼻筋の部分)を剥離挙上して、骨折で突出した鼻骨を特殊な器具で削ります。鼻骨が真っ直ぐになった後、剥離部分の皮膚を戻して切開部を縫合します。鼻の入り口の切開は1cm 以内で傷はほとんど残りませんが、手術侵襲があるため全身麻酔下に行います。この手術方法は、鼻の美容外科でも応用されています。
鼻骨以外の骨折があると、治療はやや複雑になります。
上顎骨折、眼窩骨折、眼窩吹き抜け骨折、頭蓋底骨折、鼻中隔骨折、鼻中隔血腫などの場合は、それぞれ病態に応じた治療が必要になります。
このうち、眼窩、眼窩吹き抜け骨折の場合は、視力、視野障害、眼球運動障害の有無を確認して、緊急の手術を含め必要な治療を行います。
視神経管骨折の場合は、視神経の回復のために緊急に視神経管開放術が必要です。
頭蓋底骨折の場合は、鼻性髄液漏に対して経鼻髄液漏閉鎖術を含めて緊急の治療が必要です。
鼻中隔血腫は、放置すると軟骨壊死を起こすため、時間を置かずに血腫除去が必要です。
折れたかも…
自分でわかるはずです。
鼻骨が折れたかもしれない…と。
もし、突然そんなことになったら、すぐにかかりつけの耳鼻咽喉科医を受診してください。レントゲン1枚で鼻骨骨折があるかどうか、診断してくださるはずです。