片頭痛があるんです…。
片頭痛がひどくて…。
日常生活に溶け込んだ医学の病名は、いくつもありますが、これほど頻繁に使われる病名もそう多くはない気がします。
もともと、人間は頭痛とともに生きてきたのではありません。遥か古代の原人、猿人たちが、片頭痛を持っていたかどうかはさておいて、人は疲れたり、ストレスがあったり、睡眠不足などがあると、頭痛を自覚することが多いようです。現代病と言えなくもないですが、どうして頭痛が起こるのかは、未だ意外に解明されていないのが本当です。
頭痛とは?
そもそも頭痛とは何でしょうか?
「そんなこと決まってるじゃないか。頭が痛いんだよ!」と怒られそうですが、それでは「どうして頭が痛むの?」と、子供さんに聞かれたら、お父さんお母さん方は、どうお答えになりますか?
日本頭痛学会によれば、
頭痛の定義は、
「頭部の一部または全体の痛みの総称」
となっています。
日本頭痛学会がまとめた、国際頭痛分類(日本語版第3版)(2018) によると、
頭痛は、大きく1次性頭痛と2次性頭痛とその他に分けられ、全体で14種類にまとめられています。ここでは、
1次性頭痛は、他に原因となる疾患がないもの2次性頭痛は、他の疾患によるもの
と分けられています。
頭痛は、何と分類表が作られているのです。
どこが痛い?
頭の、痛み、と書きますが、一体どこが痛いのでしょう?
すこし難しくなりますが、頭痛の多くは、侵害受容性痛と考えられています。これは、侵害受容器 =「痛み感覚レセプター」による痛みという意味です。
頭蓋外の皮膚、筋肉、血管には、痛覚受容器 = 痛みレセプターが存在しています。とくに血管が刺激されるとより広範に痛みを感じます。頭蓋骨には痛覚受容器がなく、骨は痛みを感じません。骨膜は痛みます。
頭蓋内では、脳実質は痛覚受容器がなく、無痛です。静脈洞や脳底部の動脈、硬膜に分布する動脈などは、痛みを感じます。
こう見てくると、頭蓋骨と脳、いちばん痛そうなものは無痛のことがわかります。それに対して、痛いのは膜と血管。どんな小さなものでも痛むのは主に血管です。
「頭痛発生のメカニズムとして、痛みレセプターの炎症、圧迫、牽引。脳動脈の伸展、拡張、炎症、頭頸部の持続的筋収縮、脳神経や上部頸髄脊髄神経の圧迫など… (以下省略) 」まだまだ難解な文章が続きますが、上記と下記をまとめますと、
「頭蓋内外の血管の圧迫、牽引、伸展、拡張による、痛みレセプターの刺激によるもの」
これが、頭痛の発生メカニズムでもっとも多い原因のようです。
どこが痛い?の答えは、血管です。
次に痛いのは、頭頸部の筋肉です。
分類は?
国際頭痛分類の1次性頭痛は、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛に分類されます。頭痛の原因がないもののなかに、片頭痛は分類されています。
話聞いてがものすごく長くなりましたが、それが耳鼻科の頭痛とどう関係があるの?と疑問に思われますね。じつは、ここからが重要なのです。
ここに、先に書いた国際頭痛分類があります。非常に専門的で分量が多いですが、参考までにここに掲載しておきます。web から自由な閲覧可能です。
国際頭痛分類第3版(日本語版3版)
https://ichd-3.org/wp-content/uploads/2019/06/ichd3-Japanese_all.pdf
表1.国際頭痛分類第3版beta版(ICHD-3β)の大項目(グループ)
第1部:一次性頭痛
1.片頭痛
2.緊張型頭痛
3.三叉神経・自律神経性頭痛(trigeminal autonomic cephalalgias, TACs)
4.その他の一次性頭痛疾患
第2部:二次性頭痛
5.頭頸部外傷・傷害による頭痛
6.頭頸部血管障害による頭痛
7.非血管性頭蓋内疾患による頭痛
8.物質またはその離脱による頭痛
9.感染症による頭痛
10.ホメオスターシス障害による頭痛
11.頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛
12.精神疾患による頭痛
第3部:有痛性脳神経ニューロパチー、他の顔面痛およびその他の頭痛
13.有痛性脳神経ニューロパチーおよび他の顔面痛
14.その他の頭痛性疾患
この表の中で、耳鼻咽喉科の頭痛は、11.です。タイトルの中に鼻、副鼻腔と記載されていますね。これは、2次性頭痛なので、鼻、副鼻腔の疾患が原因となって頭痛が起こっていることになるのです。
1.の片頭痛とは、かなり距離が離れていますね。
まず、正確に言うと、そもそも片頭痛は、1次性頭痛に分類されていて、耳鼻科の扱う頭痛とは、全く関係がないことがわかります。鼻、副鼻腔の疾患から片頭痛はこないのです。
鼻がわるくて受診される患者さんの中には、自分は頭痛はないけど、片頭痛ならある、と答える方が、たくさんいます。それだけ頭痛を感じている方が多くいることになりますが、「頭痛は、鼻の疾患とは全然関係がない」と思い込んでいるために、自分からは頭痛の症状をあまり言わない傾向があるようです。CTを説明しながら、頭痛が起こる話に差しかかると、「そう言えば…」となって、よく聞けば、数年前、10数年前から、毎週ずっと、片頭痛が起こるとのこと。「それは、片頭痛じゃないかもね。」という話の流れになっていくのです。それも、しばしばです。
MRI
脳神経外科でMRIの検査を受けておられる方は、最近非常に多くなりました。頭痛が激しく、自分で判断して脳神経外科を受診されています。非常によいことです。医学的にも正しい判断です。まず生命に大きな影響を及ぼす可能性のある疾患があるのかどうかを診断することが最も重要だからです。万一、脳に異常が見つかれば、何にも優先してその治療を行わなければなりません。
しかし、結果的には良いことですが、MRIで何にも異常がなかったとき、安心するとともに、患者さんは、では、この頭痛は一体どこからくるのだろう?と疑問に思います。MRIには、副鼻腔炎も正確にうつりますから、脳神経外科の先生が「副鼻腔炎がありますよ」と仰ってくだされば、患者さんも、「では、耳鼻科で診察してもらおうか。」となりますが、問題は、MRIで副鼻腔炎が全くなかったときです。おそらく脳神経外科の先生方は、副鼻腔炎がないこともきちんと説明されているはずですので、患者さんは、「そうか、ちくのう症もないのか…では、何だろう?」となります。その患者さんが、何年か経って、慢性の鼻づまりや鼻水で耳鼻咽喉科を受診されたとき、CTを撮ると、副鼻腔炎はないけれど、鼻づまりからくるであろう頭痛の話になるのです。このとき、必ず出てくる言葉が、「片頭痛」なのです。
ここで、先の話とやっとつながりました。
片頭痛とは?
本物の片頭痛は、どういうものか、みなさんご存知の方は少ないと思います。
典型的な片頭痛発作は、閃輝暗点といって、突然視界の中でギザギザ、キラキラした光の波のようなものが見えて、しだいに拡大していき、一部が暗くなって最後は見えなくなる、という現象です。大脳の視覚野の血管が収縮して拡張することが原因だと言われています。この前兆は20%にみられ、前兆のない人もいます。閃輝暗点の後、主に片側ときに両側の頭痛が、拍動性にズキン、ズキンと4-72時間かけて続きます。激しい頭痛とともに嘔吐し、光や音に過敏になります。ひどい頭痛のために歩行や階段の昇降も儘ならない状態が頭痛が収まるまで続きます。匂いに敏感になることもあります。日常生活に著しく支障をきたす疾患の1つです。専門は、脳神経外科または脳神経内科です。私は、耳鼻咽喉科ですが。
このこと1つとっても、まずほとんどの人は、片頭痛ではありません。
誤解が生じないように、日本頭痛学会のホームページに記載されている片頭痛の症状についての記載および日本頭痛学会が提唱している片頭痛診断基準を掲載しておきます。私は本当に片頭痛かもしれない、と思われる方はこちらでご確認ください。
「片頭痛による頭痛は,発作的に起こり4~72時間持続し,片側性のズキズキと脈打つような拍動性の痛みを特徴としています。片頭痛の名称の由来は片側が痛むこととされていますが,実際には4割近くの患者さんが両側性の頭痛も経験されています。また,非拍動性の片頭痛発作もあります。頭痛発作中は感覚過敏となって,ふだんは気にならないような光,音,臭いを不快と感じる方が多いようです。また,吐き気や嘔吐を伴うことも多く,階段昇降など日常的な動作によって頭痛が増強するため,寝込んでしまい学校や仕事に支障をきたすこともあります。
片頭痛の診断は,国際頭痛学会の診断基準を確認して行います。」(HP本文より転載)
https://www.jhsnet.net/ippan_zutu_kaisetu_02.html
前兆のない片頭痛の診断基準(国際頭痛分類第3版:ICHD-3,2018)
A. B~Dを満たす頭痛発作が5回以上ある
B. 頭痛発作の持続時間は4~72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)
C. 頭痛は以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす
① 片側性
② 拍動性
③ 中等度~重度の頭痛
④ 日常的な動作(歩行や階段昇降)などにより頭痛が増悪する.
あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける
D. 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目をみたす
① 悪心または嘔吐(あるいはその両方)
② 光過敏および音過敏
E. ほかに最適なICHD-3の診断がない
https://www.jhsnet.net/ippan_zutu_kaisetu_02.html
鼻から?
鼻からの頭痛と、簡単には診断できません。
CTで副鼻腔炎があると、ある程度、頭痛の部位と起こり方が予想できます。CTを見せながら、患者さんにその場で確認すると、頭痛が、ほぼ一致することがあります。このようなときは、鼻からの頭痛と診断できます。
敢えて鼻からの、と書いたのは、頭痛を起こすのは、必ずしも副鼻腔炎だけではないことがあるからです。とくに、アレルギー性鼻炎や鼻中隔わん曲症などで、高度の鼻づまりがあるとき、ときに頭痛症状も伴うことがあります。これは、CT上、副鼻腔炎はなくても、副鼻腔由来の頭痛です。鼻中隔骨部による粘膜の圧迫点や鼻腔後方の通気障害によるものと思われます。近年、中鼻甲介の形態異常で頭痛が起こるとする報告もあります。頭痛は思いのほかひどく、鎮痛薬をのんで痛みを和らげる人も多くいます。慎重な問診で確認しなければなりません。
頭痛の原因
片頭痛という言葉は、とても便利です。一般には、慢性の頭痛を表す、慣用的な言葉として日常生活で使われている印象です。それはそれで、全然問題ありません。
片頭痛という言葉をきっかけに、鼻副鼻腔からくる頭痛を、すこしでも理解していただく、会話のきっかけになれば、それは最高の言葉だと思っています。