抗ヒスタミン薬-花粉症の薬で一度は名前を聞いたことがある方もおられると思います。
毎年、花粉症になると症状のひどい方は憂鬱になります。また耳鼻科で薬を飲まないと…、それも3ヶ月も。
一般に花粉症の薬には、ケミカルメディエイター遊離抑制薬、受容体拮抗薬、Th2サイトカイン阻害薬、ステロイド薬、生物学的製剤、漢方薬など多くの薬剤があります。
この中で、耳鼻咽喉科に限らず内科外科その他多くの診療科で、現在いちばん処方されている薬は、第2世代抗ヒスタミン薬です。
今回は、受容体拮抗薬である抗ヒスタミン薬について書いてみます。
ヒスタミンとは?
花粉症のひどいアレルギー症状は、主にヒスタミンやロイコトリエンという物質が原因となって起こることを、前回までに書いてきました。(topics ヒスタミン参照)
花粉が鼻粘膜にくっつくと、花粉のアレルゲンタンパクが、鼻粘膜の粘膜下や血管周囲に存在している肥満細胞上のIgE抗体と反応して肥満細胞からたくさんのヒスタミンが放出されます。ヒスタミンは、三叉神経の知覚神経終末を刺激して、延髄の網様体にインパルス(信号)が伝わります。延髄の網様体からは、翼口蓋神経節へインパルスが伝わって連発するくしゃみや、大量の鼻水がでてくるのです。
花粉症の薬で一躍有名になった、抗ヒスタミン薬は、このヒスタミンの働きをブロックする薬です。ヒスタミンの働きをなくしてしまうことで、花粉症が鼻粘膜にくっついても、くしゃみや鼻水が出ないようにするのです。
抗ヒスタミン薬の働き
ヒスタミンは鼻粘膜の三叉神経終末に存在するヒスタミンH1レセプターに鍵-鍵穴の反応でくっつきます。三叉神経のH1レセプターがヒスタミンに占拠されてしまうので、三叉神経からの大量のインパルスが延髄の網様体に伝わるのです。それが、先に書いた翼口蓋神経節からのくしゃみ、鼻水への反応へとつながっていきます。
このヒスタミンレセプターを他の物質で占拠してしまうと、遊離したヒスタミンは、もうH1レセプターを占拠できませんので、ヒスタミンレセプターから三叉神経のインパルスは伝わらなくなります。三叉神経からのインパルスがなければ、くしゃみ鼻水の反応は進みません。このヒスタミンH1レセプターを占拠する薬が、抗ヒスタミン薬なのです。
第一世代 第二世代
花粉症の薬で有名になった抗ヒスタミン薬は、どうやって花粉症を抑えてくれているのか、すこし理解できたと思います。ところで、実際の抗ヒスタミン薬には、どんな薬があるのでしょうか。
抗ヒスタミン薬には、第一世代、第二世代があります。第一世代の抗ヒスタミン薬は、一般にくしゃみ、鼻水には効果がありますが、鼻づまりに対しては効果が劣るとされています。さらに、第一世代の抗ヒスタミン薬には、脳内のH1レセプターにも作用する薬が多かったために鎮静作用による眠気や、アセチルコリンという神経伝達物質の働きまでブロックしてしまう抗コリン作用による、口渇、便秘、悪心、排尿障害などの副作用がありました。花粉症の薬で”眠くなる”とは、昔よく言われましたね。”眠くなる薬の方がよく効く”などとも言われていました。さらに、抗コリン作用があるため、緑内障の患者さんでは眼圧を上昇させるため処方できないことや、前立腺肥大の患者さんでは排尿障害を悪化させるために処方できないなどの制限がありました。さらに、最近は多くみられる高齢者の花粉症に対しても、口渇や排尿障害、緑内障などの理由に加えて、眠気によるふらつき、転倒などの危険性から処方しづらかったのも事実です。
最近の花粉症治療で使用される第二世代の抗ヒスタミン薬は、第一世代の鎮静作用や抗コリン作用が軽減され、多彩な抗アレルギー作用を有しているため、くしゃみ鼻水だけでなく、鼻づまりにも効果があり、眠気も少ない優れた薬が数多く処方されています。
第二世代
抗ヒスタミン薬
それでは、実際の花粉症診療で処方されている薬剤には、どのような種類があるのでしょうか。ここでは、わかりやすくするために実際に処方されている薬剤を一覧にしました。
第二世代抗ヒスタミン薬のみ掲載しました。
(ア-オ順)
アゼプチン(アゼラスチン)
アレグラ(フェキソフェナジン)
アレサガテープ(エメダスチン外用)
アレジオン(エピナスチン)
アレロック(オロパタジン)
エバステル(エバスチン)
クラリチン(ロラタジン)
ザイザル(レボセチリジン)
ザジテン(ケトチフェン)
ジルテック(セチリジン)
ゼスラン(メキタジン)
セルテクト(オキサトミド)
タリオン(べポタスチン)
ディレグラ(プソフェキ配合)
デザレックス(デスロラタジン)
ニポラジン(メキタジン)
ビラノア(ビラスチン)
ルパフィン(ルパタジン)
レミカット(エメダスチン)
ご覧のように、実にたくさんの第二世代抗ヒスタミン薬が処方されています。
あれ?僕の(私の)毎年飲んでいる花粉症の薬がない!と思われた方がおられると思いますが、抗ヒスタミン薬は、花粉症の薬の一部なのです。その他に冒頭に書いた、ケミカルメディエイター遊離抑制薬、抗ロイコトリエン受容体拮抗薬、抗プロスタグランディンD2受容体拮抗薬や抗トロンボキサンA2受容体拮抗薬などの受容体拮抗薬、Th2サイトカイン阻害薬、漢方薬など、多くの薬剤があります。
バイナス、アイピーディー、キプレス(モンテルカスト)、シングレア(モンテルカスト)、オノン(プラルンカスト)、小青竜湯などです。
すべての薬の特徴は、薬価や保険収載年度、主な副作用を含めて、ウェブ上に公開されています。
改めて、これだけ多くの花粉症の薬(抗アレルギー薬)が開発されていることに驚かされます。それほど医学の中で、耳鼻咽喉科の花粉症やアレルギー性鼻炎以外にも、アレルギー関連の疾患は多いと考えてください。
必要があるから薬が開発されているのです。
どの薬が効く?
それでは、抗ヒスタミン薬として、どの薬がより効果があるのでしょう。
花粉症で耳鼻科に通院したことがある方ならおわかりになると思いますが、結局どの薬がその人にいちばん効果があるかどうかは、飲んでみないとわかりません。現在、市場に出回っている薬は、基本的にどの薬もすべて良い薬ですので、どの薬を飲んでもかなり症状を和らげることができます。ただ、その中で自分に最もあった薬を見つけるのは簡単ではないかもしれません。
花粉症というアレルギーの病態は同じでも、一人ひとりの免疫系が微妙に違い、アレルギーの重症度が違うわけですので、一概にこの薬がすべての人に最高ですとは言えません。ある人によく効く薬がある人にはあまり効きません。同じ薬で、ある人は全然眠くならないのにある人はすごい眠気がきます。結局、いくつかの薬を飲んでみるうちに、これだ!という薬に出会うことになります。その薬は一人ひとり違うのが普通です。たいていは、鼻の症状がとくにひどい時に、はじめに良く効いた薬がその薬になることがほとんどですが。
花粉症の患者さん一人ひとりが、自分に良く効く薬に出会うと、幸せな処方が始まります。あなたも1日も早く自分のお薬を見つけてください。