鼓室硬化症とは?
耳の手術でしばしば遭遇する病態に、鼓室硬化症(こしつこうかしょう)があります。
これは、慢性中耳炎の終末像と考えられています。数十年間にわたって鼓膜に穿孔があると、鼓室は数え切れないほどの炎症をくりかえし、炎症の治癒過程で、とくに耳小骨の周囲に骨増生が進行します。この骨増生が耳小骨の動きをわるくして、伝音難聴を起こします。これが、鼓室硬化症です。
40歳以上で女性にやや多く、慢性中耳炎の10-20%にみられます。
症状は?
難聴が唯一の症状です。徐々に進行する伝音難聴を示します。鼓膜穿孔が70%にあります。耳漏はほとんどありません。真珠種性中耳炎や癒着性中耳炎の合併が20%にみられます。鼓膜穿孔のないものが10%あります。
診断は?
顕微鏡下の鼓膜観察と純音聴力検査で、ほば診断がつきます。
鼓膜穿孔がありますが、耳漏はありません。乾燥耳です。残存鼓膜に高度の石灰沈着や瘢痕がみられます。
聴力検査は、伝音難聴。鼓膜穿孔の大きさに比して伝音難聴が高度のことが多いようです。
治療は?
鼓膜穿孔をともなう伝音難聴ですので、手術治療が選択されます。鼓膜穿孔がない症例でも伝音難聴ですので、手術治療の対象になります。鼓室形成手術によって、耳小骨周囲の硬化性病変を除去し、聴力改善を計ります。アブミ骨の固着がみられることがあり、2段階の手術治療が必要なこともあります。
手術治療の選択は?
患者さんは長期間、難聴がありますが、耳漏がないため不快感がありません。難聴もかなり以前から悪いため、慣れてしまっています。そのため、まず、この中耳炎について正しく情報を伝えなければなりません。手術治療の選択肢があり、聴力改善の可能性があることを知らない患者さんも少なくありません。その上で、患者さん本人からの手術治療に対するつよい希望があれば、手術治療を行います。手術後に聴力が良くなる症例も少なくありませんが、安易な聴力改善は約束できません。
結論から言うと、”手術をするか、そのままか” です。患者さん本人の希望にまかせるしかありません。
ただ、何もしないより、”聴力改善の可能性” に賭けてみる価値はじゅうぶんにあります。