今回は、耳の手術治療でよく遭遇する、真珠種性中耳炎について書いてみたいと思います。
真珠種性中耳炎とは?
耳の疾患の中でも、とくに治療の難易度が高いものに、真珠種性中耳炎があります。真珠種性中耳炎は、本来なら外耳道側にある鼓膜上皮(皮膚)が、何らかの原因で中耳腔側(粘膜)に迷入して、真珠のように角化上皮の堆積物を作りながら大きくなっていく疾患です。
特徴は、良性疾患にもかかわらず、耳小骨や周囲の側頭骨、内耳などを破壊しながら悪性のように進展していくことです。
分類は?
先天性と後天性に分類されます。
後天性は、真珠種の鼓膜上の発生部位によって、弛緩部型と緊張部型に分類されます。
鼓膜穿孔から上皮が鼓膜裏面に入り込んだ2次性真珠種の分類もあります。
症状は?
難聴と耳漏です。
後天性真珠種の弛緩部型は、早期に耳小骨破壊を伴うため、難聴の進行が早く、注意が必要です。弛緩部型も進行すると耳小骨破壊を伴い、難聴が進行します。
弛緩部型、緊張部型ともに、さらに進行すると、めまい、顔面神経麻痺を発症します。
診断は?
後天性は、弛緩部型、緊張部型ともに、鼓膜上皮が陥凹して発症します。大きく陥凹した上皮のポケットに、デブリとよばれる白色堆積物をみとめたり、痂皮(かひ)や肉芽を形成することがあります。炎症を伴うと耳漏が出ます。陥凹した部分の周囲は骨破壊をともなうことが多く、進行すると外耳道側壁から後壁を破壊します。骨破壊は真珠種の進行にともなって拡大します。
進行すると、半規管瘻孔によるめまい、顔面神経麻痺を起こします。さらに進行すると乳突洞から硬膜に達する例があります。
先天性は、発生の過程で中耳腔に生じるため、鼓膜は正常です。鼓膜を通して白色の真珠種が観察されることもあります。伝音難聴をともなうことがあります。
聴力検査では、後天性真珠種が進行して耳小骨破壊が起こると伝音難聴を示します。
側頭骨CTでは、真珠種の進行の程度に相関して、上鼓室から乳突洞にかけて軟部陰影がみられます。
真珠種性中耳炎の診断は、顕微鏡下の鼓膜の視診と、側頭骨CTから難しくはありません。
進展度は?
真珠種性中耳炎の進展度は、現在、ステージ分類が一般的です。
真珠種の病態分類、
弛緩部型、緊張部型、先天性、2次性の4つについて、それぞれ進展度がステージ分類されています。
真珠種の進展度の基本分類は、
Stage Ⅰ 真珠種が「初発区分」に限局する
Stage Ⅱ 真珠種が「初発区分」を超えて隣接区分へ進展する
Stage Ⅲ 側頭骨内合併症・随伴病態を伴うStage Ⅳ 頭蓋内合併症を伴う
です。さらに、病態分類別に進展度が評価されています。弛緩部型、緊張部型、先天性と。
弛緩部型
Stage Ⅰ 真珠種が上鼓室に限局する
Ⅰ a Ⅰ b
Stage Ⅱ 真珠種が上鼓室を超えて乳突洞や鼓室、前鼓室に進展する
(Stage Ⅲ Ⅳ は同上)
緊張部型
Stage Ⅰ 真珠種が鼓室(後〜下鼓室・鼓室洞)に限局する Ⅰ a Ⅰ b
Stage Ⅱ 真珠種が鼓室を超えて上鼓室や前鼓室、乳突腔に進展する
(Stage Ⅲ Ⅳ は同上)
と分類されています。
複雑で専門的すぎますね。
要は、StageがⅠ-Ⅳと進むほど、真珠種が大きくなることを示します。したがって、重症度は高くなります。先天性の進展度分類は、ここでは省略します。
簡単にわかりやすく言うと、真珠種が、鼓膜のところから、耳の後ろの側頭骨の空間へ、周囲の骨を壊しながら大きくなっていく、ということです。
治療は?
真珠種性中耳炎の治療は、手術治療が第一選択です。局所の保存的治療を行うことで、真珠種の進行を停止させたり緩やかにすることはできますが、根治は期待できません。
手術は、鼓室形成手術と乳突削開術を併せて行います。中耳腔と乳突洞に入り込んだ真珠種を摘出し、耳小骨の破壊があれば耳小骨再建を追加します。進展度に応じて、2期的に手術を行うこともあります。
真珠種性中耳炎の手術の目標は、
① 真珠種の完全摘出と再発がないこと
② 聴力の改善
この2点です。
注意点は?
真珠種性中耳炎は、良性疾患ですが、再発もあり、手術によっても、必ずしも聴力が良くならない症例があります。2期的な手術を計画することもあります。
手術はどうしても必要な疾患ですが、手術については、耳鼻咽喉科の主治医と十分に話し合う必要があります。
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