鼻づまり…耳鼻科の鼻の症状で、最もつらいものかもしれません。鼻づまりは、医学的に難しく表現すると、「鼻呼吸障害」です。
今回は、鼻づまりについて、書いてみます。
鼻呼吸とは?
鼻呼吸とは、外鼻孔から鼻腔を通り、咽頭、喉頭、気管を介して行う呼吸のことを言いますが、そもそも鼻呼吸とは何のためにあるのでしょう。
鼻呼吸の役割は、吸気の加温、加湿、浄化作用による、下気道の保護にあります。下気道とは、気管、気管支、肺のことです。さらに鼻呼吸には、鼻粘膜の知覚によって、呼吸の最適なリズムや深さを調整するという働きがあります。鼻呼吸が、呼吸のリズムや深さを調節するというのは不思議ですね。すこしずつ説明していきます。
鼻呼吸の生理
吸気時には、22.5℃の外気温は、鼻腔通過時に33.4℃まで加温され、吸気湿度は75-90%まで加湿されると報告されています。
外気湿度に関係なく、吸気の鼻腔内湿度は平均85%まで上昇するとされており、咽頭で90%、気管上部で最高99%に達すると報告されています。
15μmまでの塵埃(ダスト)はほぼ100%、鼻粘膜に吸着され、6μmまでの小粒子の80%は鼻粘膜で吸着されて除かれます。スギ花粉は30μm以上、ハウスダストは10μm以上ですので、ほとんどが鼻腔の粘膜に付着してしまう(=反応を起こす!)ことになります。
鼻粘膜は腫脹と収縮を繰り返し、呼吸のときに鼻腔内の通気性を自動的に調節することによって、通常の呼吸だけでなく花粉やハウスダスト、PM2.5、異物、有害物質などが、生命維持に重要な臓器である”肺”に直接侵入してくるのをブロックする働きを持っています。さらに吸気を極限まで加湿できる機能は、気管支、肺胞の粘膜を乾燥した空気から保護する重要な働きを担っています。
鼻呼吸障害とは?
“外鼻孔から鼻腔を通り咽喉頭、気管を介して行う生理的な鼻呼吸が障害され、口呼吸を余儀なくされている状態” をいいます。
鼻呼吸障害の原因は、①アレルギー性鼻炎、②慢性副鼻腔炎、③血管運動性鼻炎、④薬剤性鼻炎、⑤鼻中隔わん曲症、⑥アデノイド増殖症、⑦その他(腫瘍など)があります。
このうち、アレルギー性鼻炎や血管運動性鼻炎による鼻粘膜の腫脹が、両側性の慢性の鼻づまりを、また鼻中隔わん曲症による鼻腔形態の解剖学的異常が一側性の鼻づまりと両側の交替性の鼻づまりを、それぞれ起こしやすい病態を作っています。薬剤性鼻炎も鼻づまりが起こる機序は違いますが、鼻粘膜の腫脹による鼻呼吸の障害という点では同じです。
慢性副鼻腔炎の鼻呼吸障害は鼻腔内の鼻茸(ポリープ)が大きくなった場合に起こりやすく、アレルギー性鼻炎や鼻中隔わん曲症の合併があるとさらに高度になります。
アデノイド増殖症による鼻呼吸障害は、主として小児にみられます。
上記から、鼻呼吸障害の原因は、鼻茸、アデノイドによる鼻腔内および鼻咽腔の機械的閉塞以外はほぼ全て、鼻中隔わん曲症および鼻腔内で最大の鼻粘膜容積を占める下鼻甲介粘膜の腫脹によるものであることがわかると思います。
とくに下鼻甲介粘膜の腫脹が鼻呼吸障害にもっとも影響を及ぼします。
神経伝達物質
鼻腔の通気性は、主として左右の鼻粘膜容積の増減によります。鼻粘膜容積の大部分を占める下鼻甲介粘膜は、左右ともす粘膜の腫脹と収縮を繰り返しており、自律神経の働きによってコントロールされています。これは、鼻サイクル( nasal cycle )と言われていて、片方の鼻粘膜が腫脹すると片方の鼻粘膜が収縮する反応を2-3時間ごとに左右交互に反復する、鼻内の生体現象です。
鼻粘膜を腫脹させる現象では、鼻内に分布している交感神経、副交感神経、三叉神経などの神経終末に存在している神経伝達物質が重要な働きをしています。
交感神経
NE(norepinephrine ノルエピネフリン)
NPY(neuropeptide Y ニューロペプタイドY )
ATP(adenosine triphosphate アデノシン3リン酸)
副交感神経
Ach(acethylcholine アセチルコリン)
VIP(vasoactive intestinal poly peptide バソアクティブインテスティナルポリペプタイド)
NO(nitric oxide 一酸化窒素)
三叉神経
Substance P(サブスタンスP)
CGRP(calcitonin gene related peptide カルシトニン遺伝子関連ペプチド)
ニューロキニン(neurokinin)
これらの神経伝達物質が鼻粘膜に細かく張り巡らされてる血管や神経に作用して、鼻粘膜の腫脹(鼻づまり)が起こるのです。
さらに、花粉症やアレルギー性鼻炎によって鼻粘膜周囲の肥満細胞その他の細胞から分泌される、ヒスタミン(histamine)、ロイコトリエン(leukotrien )、ブラディキニン(bladykinin )、血小板活性化因子(PAF: platelet activating factor)などが、NO(一酸化窒素)を介して鼻粘膜の腫脹を起こすと言われています。
一般に、昼間は交感神経優位になりますので鼻粘膜はやや腫脹しにくく、逆に夜間は副交感神経優位になりますので鼻粘膜は腫脹しやすくなります。また精神的に過度に緊張したり興奮したりしても、交感神経の働きでアドレナリン分泌が多くなり、鼻粘膜に分布する交感神経終末からのノルアドレナリン(norepinephrine ノルエピネフリン)分泌の増大によって鼻粘膜血管がつよく収縮するため鼻粘膜は収縮しやすく腫脹しにくくなります。夜間はこれと逆の現象が起こります。夜就寝時に鼻がつまってくることが多いのは、こういう理由によります。
鼻呼吸障害の診断
鼻呼吸障害は、簡単に言えば、鼻づまりです。鼻呼吸障害の検査は、鼻づまりを客観的に捉える検査方法です。
①Glatzel(グレッツェル)鼻息計
ステンレス製の金属板を外鼻孔直下において、鼻からの呼気に含まれる水蒸気によって金属板上の曇りの大きさで鼻腔の通過性を検査する方法です。窓ガラスに鼻息を吹きかけて見るのと同じ原理です。原理が単純で測定も簡単、結果を自分で容易に確認できる利点があります。一方、測定値を数値で表すことができず、客観性に乏しい難点があります。
②鼻腔通気度検査(Rhinomanometry リノマノメトリー)
電気回路のオームの法則を応用して鼻腔抵抗を求める方法です。鼻腔抵抗を鼻腔の圧/通気量と考え、電気抵抗(R)=電圧の差(V)/電流(I)の公式を応用します。
鼻腔抵抗=前鼻孔圧(P1)-後鼻孔圧(P2)/鼻腔通気量として計算します。前鼻孔圧の測定は容易ですが、後鼻孔圧の測定が難しいので、通常は対側の前鼻孔圧を代用して測定を行います。
片方の前鼻孔に圧センサーノズルをつめ、対側の前鼻孔に後鼻孔圧を代用する圧センサーノズルをつめて鼻呼吸を行い、片方ずつ測定します。これはノズルアンテリオール法といい、一般に最も多く行われている測定法です。鼻腔抵抗は、モニター画面にS字状の圧-気流量曲線として描出されます。左右の鼻腔通気性は、先に書いた鼻サイクル(nasal cycle) によって大きな影響を受けるとされていますので、仮に測定時の鼻腔抵抗が明らかな高値でなかったとしても、一度のみの測定では正確な鼻呼吸障害の診断が行えない危険性が指摘されています。鼻粘膜腫脹の環境による変化や日内の変動も考慮して、必要ならば複数回の測定を行なって総合的に判断を行うのが正しい評価方法とされています。
鼻腔抵抗の正常値を決定することは前述の理由で困難とされていますが、あくまで参考値として、0.25Pa/cm3/sが提唱されています。
https://www.chest-mi.co.jp/product/respiratory/hi-801.html
③CT, MRI
骨軟膏と粘膜に覆われた鼻副鼻腔の解剖学的特徴から、鼻腔通気に関係する解剖学的空間の確認にはCTによる画像診断が優れています。MRIは軟部組織の描出に優れていますので、特殊な鼻副鼻腔疾患の診断を除けば、通常はCTのみで十分有意な情報が得られます。
④音響鼻腔計測検査(Acoustic Rhinometry アコースティックリノメトリー)
原理は、鼻腔内に放射した音の反射を利用して前鼻孔から任意の距離の鼻腔断面積を測定する検査方法です。
長さ50cmの金属筒の先端ノーズピースを前鼻孔にあて、開口し息を止めて片方ずつ鼻腔抵抗を測定します。日本国内で医療機器として承認されているのは英国製の測定機器(A-1 Executive acoustic rhino meter) 1台のみですが、現在、保険適応外の検査になります。
非常に詳細な鼻腔通気の測定が可能です。
縦軸に前鼻孔からの距離、横軸に左右の鼻腔断面積をとった断面積-距離曲線(area-distance curve) が描かれ、左右別にどの位置でどれくらい鼻づまりが起こっているかを正確に評価できます。鼻腔内の正確な位置による鼻腔の開存性を視覚的に理解し客観的に評価できるため、現在もっとも優れた鼻腔通気度の検査方法と言えます。
グラフより最も鼻腔通気のわるい部分=最小鼻腔断面積(minimum cross-sectional area MCA)の検出と、積分法を用いて任意の鼻腔空間における鼻腔容積(=鼻腔空間の体積 nasal volume)を計算可能です。
最小鼻腔断面積の日本人の平均値は、0.5-1.0 cm2 と報告されています。
かなり狭い数値ですね。
(https://pdf.medicalexpo.com/ja/pdf-en/gm-instruments/nasal-investigation-a1-rhinometer-nr6-rhinomanometer/96001-234279.html#open597269)
鼻腔通気度検査の数値
先の項で、鼻腔通気度検査が最も一般的な検査であること、しかし鼻サイクルなどの理由により検査結果の数値は正確に判定するには困難がともなうことを書きました。
しかし、実際の臨床では検査を行なって何らかの判定を行い、治療を進めなければなりません。一般には、鼻腔通気抵抗値が、0.25未満を正常、0.25-0.50を軽度鼻閉、0.50-0.75を中程度、0.75以上を高度鼻閉と分類する基準が提唱されています。したがって、この数値を基準に、実際の鼻症状とあわせて総合的に判断することが望ましいと思われます。
鼻呼吸障害の弊害
鼻呼吸障害について述べてきました。鼻呼吸の生理、原因や診断、検査についても理解しました。
鼻呼吸障害= “鼻呼吸ができないこと” は、いったい何がそんなに悪いのでしょうか? それは極論すれば、鼻呼吸ができないと最終的に口呼吸に移行することなのです。言い換えれば、鼻呼吸ができず口呼吸をするようになって、口呼吸の弊害が問題になるのです。
口呼吸は何故悪いの?
それでは何故、口呼吸はそれほど悪いのでしょうか。これはかなり複雑な問題です。単に口が開いてるとだらしないから… などの問題ではありません。呼吸の生理学や上顎下顎、咽頭喉頭の解剖学が深く関係してくることなのです。
口呼吸についての議論は長くなります。それはつぎの頁で詳しく書くことにします。
(→ Topics 口呼吸 に続きます。)