今回のテーマは口呼吸です。前回の鼻づまりに続く内容です。
口呼吸の弊害
鼻呼吸が障害されると口呼吸になります。
人間は鼻と口からしか呼吸できませんから当然ですね。でも同じ呼吸だから、鼻からだろうと口からだろうと空気を吸うことに変わりはないだろうと考えてはいませんか? じつは鼻呼吸と口呼吸には単なる呼吸量だけでは論じられない多くの違いがあるのです。これからそのことについて書いていきます。
口呼吸はなぜ良くないのでしょうか?
それは、つぎの7点に要約されます。
不正咬合と上顎下顎の発育異常
歯科口腔外科領域では、すでに1900年台から口呼吸が顎(がく)顔面や歯列咬合の成長に及ぼす影響についての記載が見られます。歯科医師の間で、上顎前突の原因と口呼吸を関連づける議論が長い間されてきました。最近の報告では、口呼吸では上顎と下顎が前下方へ突出していく成長が見られることが多いため、これに関した歯列異常や咬合(噛み合わせ)の異常が起こってくることが多いと言われています。以前より矯正歯科医師からは、歯列の矯正治療に口呼吸が弊害になることが指摘されています。
咀嚼(そしゃく)機能の低下
鼻呼吸がうまくできないと、食事中は食物塊を噛みながら(咀嚼)、口呼吸しなければならないので当然、呼吸のために咀嚼が一時中断される現象が起きます。また咀嚼が中断されるため、食物塊を嚥下するまでの時間が延長します。咀嚼力も低下して、咀嚼機能全体が悪くなります。
唾液のバリア機能低下
口呼吸によって口唇離開時間が長くなると、口腔粘膜の乾燥が進み、唾液の分泌量が減り、唾液による自浄作用(バリア機能)がなくなります。虫歯や歯周病のリスクが高くなり、結果的に心臓血管系の合併症の危険性が高まることになります。
呼吸の中断
鼻呼吸障害によって口腔において咀嚼と呼吸を同時に行う必要に迫られるとき、呼吸機能への影響も議論されています。口呼吸時の食物咀嚼は、呼吸運動を一部制限します。噛みながら連続的に呼吸をすることは難しいのです。すなわち、呼吸するときは咀嚼をやめ、咀嚼するときは呼吸を中断しながら、両者を同時に行わなければならないのです。咀嚼による呼吸運動の一時中断は、肺換気量の減少と血液中の酸素飽和度の低下をもたらし、肺の伸展運動の受容体による刺激が呼吸中枢へと伝達されて呼吸補助筋による胸郭の運動が活発になることが知られています。つまり簡単に言うと、滑らかな連続的な呼吸ではなく、ときどき大きく息をするような呼吸になってしまう、ということです。口呼吸ではリズミカルな呼吸が難しくなるのです。
鼻肺反射の減弱
鼻-肺反射 ( nasal ventilatory refrex ) と呼ばれる反射があります。これは、鼻呼吸をしている時は、空気の通過による鼻の粘膜上にある受容体刺激が、呼吸中枢に伝わり、呼吸を促進させる反射のことです。したがって口呼吸の時は鼻呼吸量が低下するため呼吸の促進が起こらず、肺の換気能力が低下します。そのため、呼吸中の気流流量や換気量の低下が見られます。
鼻呼吸量の低下による肺の酸素-二酸化炭素交換能の低下
NO(一酸化窒素)は、鼻副鼻腔で産生され、肺の血管拡張を起こす働きがあることが知られています。
口呼吸では鼻呼吸量が低下するため、NO産生量が低下して、肺におけるガス交換能= “肺胞における酸素-二酸化炭素の交換能”が低下することが報告されています。
これは、たとえ口呼吸によって鼻呼吸と同量の換気がなされたとしても、肺胞レベルでの酸素と二酸化炭素の交換能力に差が生じて、最終的に呼吸機能の低下を招いてしまう事実を示しています。
これは、生理学的に非常に重要なことです。
加湿加温不足による肺胞の伸展制限
鼻呼吸のもう一つの重要な機能は、鼻粘膜上の水分による吸気の加温、加湿機能です。口呼吸によって吸気が加湿、加温されていないと、肺の伸縮性が低下して、肺胞における酸素-二酸化炭素交換が十分に行われなくなります。
結論
口呼吸の弊害をご理解いただけたと思います。口呼吸が悪いのですから、鼻呼吸をすべきです。
呼吸は非常に重要な生理機能です。ひとが生まれてから死ぬまで数十年のあいだ、たった数秒さえ自分勝手には止まりません。今、息を止めてみてください。苦しくて1分間も止められないでしょう。これほど重要な呼吸を、悪いやり方でやってはいけないのです。